はじめに
1962年、今からちょうど40年前、ニューヨークのカーネギーホールで開かれたボサノヴァコンサートのステージには、デサフィナードの作曲者としてすでにアメリカでもその名を知られていたアントニオ・カルロス・ジョビン、バチーダと呼ばれる革新的なギター奏法を編み出したジョアン・ジルベルトのほか「カーニヴァルの朝」の作者ルイス・ボンファ、まだ無名だったセルジオ・メンデスなど大勢のブラジル人ミュージシャンがいた。客席にはトニー・ベネット、ペギー・リー、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイビスなど米国の著名なミュージシャン達がいた。ボサノヴァという音楽を自分の目と耳で確かめようとしていた彼等のお目当てはトリを務めるジョアン・ジルベルトであった。
日本には60年代半ばに最初のボサノヴァブームが到来した。アストラッド・ジルベルト、セルジオ・メンデスがよく知られた代表的なボサノヴァ・アーティストであった。
ジョビンは86年に自己のバンドで来日、日比谷の野外音楽堂で公演を行う。97年、生誕40周年を迎えて再びボサノヴァ音楽が注目を集め始める。ボサノヴァの歴史が知られるにつれ、この魅力的な音楽を産み出した3人、作曲家アントニオ・カルロス・ジョビン、詩人ヴィニシウス・ジ・モラエス、そしてジョアン・ジルベルトについて多くのことが語られるようになる。
日本では廃盤となっていた音源が続々とCDとして再発され、ジョイスやイヴァン・リンスを始めブラジル人アーティストの公演が夏の恒例イベントとして定着してきた感があるが、ジョアン・ジルベルトはまだ一度も来日していない。
去る02年6月22日、インターネット上の情報を手がかりにジョアン・ジルベルトのコンサートを体験することができた。場所は40年前と同じカーネギーホール、毎年開かれているというJVCジャズ・フェスティヴァルの一夜であった。